梯久美子「狂う人」を読んでから大分時間がたってしまった。「死の棘」(島尾敏雄)を読み続けている。漸く佳境というか終盤に近ついてきた。あと3章を残すのみである。このおどろおどろしい苦しい物語は雑誌の連載の訳だが読者にはどのように受け止められたのだろうか?正直のところ、読み終えないと話にならないので苦労して読んでいる。「それにしても、島尾敏雄という作家はよくも書くよ」という気がする。これは実話に基づく小説なのだとは読んでみて再確認する。ここの小説は島尾もミホも40数歳ころの話なんだろう。夫婦の諍いを「カテイノジジョウ」と子どもの伸一とマナが言っているのが普通に思える。こんな状況でもこどもは育っていくのだと一面では感心する。それにしても、小説をかくということはこんなにも苦悩に満ちた作業なのだ。
梯久美子「狂う人」によれば、島尾敏雄は自分の小説を書くための材料を得るため浮気をし、かつ自らの情事を記録した日記を故意に妻のミホの読めるように置いておいたともとれる。特攻隊長として死んでいればよかったのに、その贖罪のために自らを「審判を受けるべき存在」として島尾は文学に表現しているとの解釈だ。「死の棘」の中では、かつては凛々しい軍人(隊長さん)」であった島尾は狂った妻ミホにかしずく軟弱の徒になっているのいに驚くばかりだ。それにしても、島の美しい巫女のような少女を娶った島尾敏雄はなんで外に愛人をこしらえて妻を容易くも裏切って行ったのだろう。単なる情欲というか女好きというのではなくて、これも小説の材料を自ら作るための意図した行為だったのだろうか?だとしたら、これはこれで凄く恐ろしいことに思える。作家はここまでやるのか、驚くばかりだ。