TomyDaddyのブログ

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シリーズ「私の温故知新」― (2)1997年の理学療法

  • シリーズ「私の温故知新」― (2) 1997年の理学療法

  

 大江健三郎に「万延元年のフットボール」という小説がある。1970年代の初期に、講談社からでた単行本を購入して読んだ。今も私の書棚の上段に鎮座している。知的障害のある子どもを育てながら英語の講師をしている主人公(語り手)の故郷(大江健三郎の故郷の四国の森か)を舞台とする土着の風景もまじえた物語である。いまのところ再読の勇気はないが、妙にタイトル「万延元年のフットボール」には惹かれる。万延元年は1860年にあたり、江戸時代の末期である。1月13日に、勝海舟福沢諭吉、ジョン万次郎らがかいりん丸でアメリカへ出向した日ことである。

 ■1997年の理学療法

 昨日、古い資料を廃棄する前にみていたら興味深い文書がでてきた。『理学療法と医療の周辺―「第8回理学療法ジャーナル賞」授賞式開催』という文書だ。文字通り高齢社会となった現在、医療の現場で理学療法士の存在は欠かせない。2020年現在、理学療法士は全国で61000人を数えるようである。日本で、理学療法士作業療法士が法制化されたのは1965年であるから漸く半世紀をこえたことになる。今から23年まえの理学療法士の状況を把握する資料として、上記の文書を、「私の温故知新」シリーズの一つとして、以下に再掲する。

  ■理学療法と医療の周辺―「第8回理学療法ジャーナル賞」授賞式開催

 〔入賞〕回復期心筋梗塞患に対する筋力トレーニングの安全性(聖マリアンナ医大 山崎裕司・他)

〔準入賞〕老人保健施設における動作能力・訓練目的別グループ訓練の効果(丸茂病院 金澤寿久・他)

 第8回理学療法ジャーナル賞が標記2論文に決まり、授賞式が2月11日の夕刻から本郷の学士会館分館で開かれました。理学療法士の研究奨励を目的とするこの賞は、『理学療法ジャーナル』(PT)誌に1年間に掲載された原著論文・依頼論文の中から、毎年1回、同誌の編集委員によって選考されます。(PT)の前身(PT/OT)の時代に『理学療法作業療法』賞が既に13回の顕彰を重ねていますから、通算すると本年の授賞式は21回目になります。

 この小文のタイトルに敢えて周辺という言葉を用いましたが、医学・医療界において“パラメディカル”という言葉は希望も含めた在り方から“コメディカル”に瞬く間にとって替わられました。その“コメディカル”の1つとして以外に一般に知られてこなかったのが「PT/OT」ではないでしょうか?
 わが国の理学療法士は、1963年5月に東京・清瀬市の国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院が誕生し理学療法士の養成教育が開始されました。1965年8月、PT・OTに関する法律が制定され、翌1966年3月、先述の清瀬リハ学院出身者14名を含めた183名が第1回国家試験に合格しました。昨年(1996)3月の合格者は1,668名ですから、実に10倍増の合格者数となります。この間の歴史的八店につぃては、昨年の(PT)増大号(第30巻12号)「理学療法の展望」に詳細にまとめられています。有資格理学療法士は1997年現在、約1万8000人を数え、“コメディカル”職種の中で大きな存在です。そして、高齢化社会の進行する中でPT・OTは益々重要な医療職種として注目され、ここ数年、国際医療福祉大学(栃木)、茨城県立医療大学広島県立保健福祉短大、等々を初めとして養成校(大学・専門学校)が相次いで新設されてきたことは周知の通りです。
 今回、入賞に輝いた山崎先生・他(聖マリアンナ医大)の論文は、タイトルから推測されるように、“心筋梗塞患者に筋肉トレーニングを実施しても安全で効果もあります”とういう趣旨のものです。この種の研究は1985年以降から、アメリカの雑誌では発表が増えてきているが、日本では先駆的なものとのことです。

 「日本の心筋梗塞患者さんの層は決して欧米と同じではなく急性期に臥床を契機として歩行ができなくなってしまい、そのため30%くらいの方が通常のリハプログラムでも消化できなくなってしまう。そこで、そのような患者さんに筋肉トレーニングを応用できれば、症状に合わせた有効な運動療法が展開できるのではないか、と理学療法士として思った。そのためには先ず循環器専門の先生方に安全性を証明して理解して頂かなければならない」と考えたのが研究の動機です、と受賞者挨拶の中で、山崎先生が話されたのが印象に残ります。この臨床研究に慎重な配慮を要するのは当然で、村山正博先生(同大・循環器内科教授)が、共同執筆者に名前をつられ®くぁれているのも納得します。
 一方、準入賞の金澤先生の論文は、これもタイトルからお分かりのように、「老健施設」におけるお年寄りの基本動作能力の訓練効果を調査した報告論文です。「一施設の試みを普遍化するのは難しいことだが」と、編集委員の高橋正明先生の講評にもありましたが、一番論文になりにくい地道な仕事の成果ともいえます。「老健施設」入所者およびデイケア利用者100名に対して、PTあるいはOT一名の常勤者をおくことが義務付けられているとのことです。昨年11号の(PT)誌で、「特別養護老人ホームにおける理学療法」を特集しましたところ、予想以上の反響がありました。高齢者医療・介護の領域に、PT・OTの職域が確実に広がっていることが窺われます。まさに、医療の周辺の充実が求められていると言えるでしょう。

(「1997年2月20日 週刊予定表No.2346 付録」より)

 <コメント> 2015年8月私の連れ合いは小脳出血で倒れた。ICUと急性期脳外科病棟に2ヶ月、回復期リビリテーション病院に2ヶ月の入院を余儀なくされた。とくに、リハビリテーション病院においては、PT、OTそして言語聴覚士(ST)のかたの援助と指導のお陰で比較的早期に自宅復帰できた。爾来、5年が経過するが現在もリハビリ歩行を継続している。ちなみに、言語聴覚士(ST)が日本で法制化されたのは1997年である。

 (2020.9.1)

(シリーズ「私の温故知新」― (2) 1997年の理学療法