TomyDaddyのブログ

毎日の健康管理の記録、新聞、雑誌、書籍等の読書について感想を書いていく。

『破局』(遠野 遥)を読んだ―これが新しい文学なのか!

 最新の芥川賞の受賞作『破局』を読んだ。1991年生まれだから29歳という若い方だ。2019年に『改良』という小説で第56回文藝賞を受賞しており、2作目で芥川賞を受賞した。受賞者インタビューで、「小説は初期費用がかからない。それで安易に飛びつきました」と述べているのは驚きだ。すでに三作目を書いているというのだという。ひとはどのようにして作家になるのだろうか?どうも、最近の書き手は、公務員や銀行員になるのと同じように職業としての作家を目指すところが凄いと思う。ドストエフスキーも初めから職業としての作家だったのを思い起こす。もう少し前だと、出版社に勤めて編集者をしながら自分も書いて作家に転身する人も多かったと思う。
 さて、『破局』の主人公は、慶應大学らしい三田の大学の4年生である。公務員を目指して就活をしながら出身高校のラグビー部の指導もしながら筋力トレーニングも欠かさない。同じ大学の彼女(麻依子)も4年生だが政治家の秘書を希望して将来は政治家を目指している。登場人物がいわゆる文学青年というような設定では全くない。主人公の青年は、まったく健康で頭がよくて、セックスフレンドの彼女もいて、健康で筋トレと自慰を上手にしながら就活の準備にも余念がない。当然ながら、公務員試験にも合格してしまう。ところが、思わぬところに破局が待ち受けていた。新しい彼女である灯(あかり)とのセックスに溺れているうちに、逆に灯の性欲に振り回されてしまう。「破局」の到来は、いささか不自然な状況設定で強引なにも思える。しかし、こういうのが平和で物質的には豊かな現代社会の閉ざされた不安の状況を示す新しい文学なのだろう。