（116）清水将之さん②と座談会「世界精神保健連盟1993年世界会議」～1993年2月20日（土）
「世界精神保健会議」に向けての座談会を、東京・本郷の医学書院会議室で、1993年2月20日（土）、午前10時から12時まで収録した。土曜休日なのでKI君と管理職の私が担当した。この企画は、「児童青年精神医学会議」が数年前に京都で開かれた折に知己を得た清水将之先生（名古屋市立大学助教授・精神医学）からの依頼で実施したものだった。
■世界精神保健連盟1993年世界会議■
●1993年2月20日（土）：
「二十一世紀をめざしての精神保健―テクノロジーと文化そしてクオリティ・オブ・ライフ」をメインテーマとする世界精神保健連盟1993年世界会議（1993 World Congress of World Federation for Mental Health）が、1993年8月23日～27日までの五日間、千葉・幕張メッセで予定されていた。座談会は上記の世界会議の広報のためだ。そのため、同会議広報副委員長の清水さんの他に、組織委員会委員長の島薗安雄さん（国立精神神経センター名誉総長）と会議のプログラム委員長の加藤信勝さん（京都府立医大名誉教授）のお二人に参加いただいた。
座談会構成は以下のようなものだった。
【テーマ】世界精神保健連盟世界会議（WFMH）に向けて
1．序言として―精神保健という言葉の拡がり：
（1）テクノストレスをめぐって：①ハイテクノロジー（システム技術者等）のストレス、②省力化と労働条件における人間疎外、③労務管理の新しい課題、時短をゆとりで補うことができるのか―日本人の遊び下手とも関連して。
（2）精神障害者リハビリテーションと人権：①入院治療から入院外治療への変換、②リハビリ施設と制度の現況、地域ネットワーク、③社会経済とリハビリテーション、④社会復帰過程における人権保障
（3）物質依存―アルコール問題を中心として：①現況、②依存の背景―時代精神の歪み、社会病理の側面、③対策はどうなっているか、④女性とアルコール
（4）ユーザー活動：①世界と日本の動向、②ユーザー活動に対してわれわれは何ができるか。
2．結語として―今後の課題：
（1）難民問題への援助、（2）文化接触・摩擦の乗り越え（帰国子女の問題も含めて）、（3）高齢化、少産時代の精神保健。
「世界精神保健連盟1993年世界会議への招待」というタイトルで、この折の収録内容を医学界新聞・第2050号（1993年）に紹介した。
■「精神保健とは何か？■
「精神保健」はメンタル・ヘルス（Mental Health）のことで、人々の精神的健康を対象とする学問と実践活動を意味する。具体的には、精神的健康の保持・増進を図るほか精神的健康障害の予防と健康回復、精神障害の予防と健康回復、精神障害の治療およびリハビリテーションを目的とするものである。
「精神保健」の内実は、1993年当時から27年を経た現在どのように進展あるいは変化しているのだろうか。21世紀になって20年、精神保健の現状は、新型コロナウイルス感染の登場も加味して却って困難に直面しているのではないだろうか。働き方改革が喧伝されてきたが、職場のストレスも含めて改善されているのだろうか。直近のテレワークの導入もある面では新たなストレスになっているのに違いない。物質依存については、アルコールや大麻などの薬物依存に加えて性（セックス）依存なども喧伝されている。性の多様性（LGBTQ）を社会として容認し、尊重しようとする動きは近年における成果であろう。LGBTQはセクシャルマイノリティ（性的少数者）をあらわす言葉で、性的指向や性自認を意味する英語の頭文字をとって作られた。L（レズビアン）、G（ゲイ）、B（バイセクシャル）、T（トランスジェンダー）、最後のＱは、クエスチョニングまたはクイアは、性的指向や性自認が定まっていない人を意味するのだという。さらに、団塊の世代が高齢者になった現在、高齢化社会の進行と認知症の増加は新たに、さまざま精神保健の問題を提起していると言えるだろう。
ところで、清水さんは1934年3月31日生まれで86歳でご健在だ。清水将之さんには、今回紹介した座談会や国際児童青年精神医学会（京都開催）の取材でお世話になった。忘れ得ぬ「医人」のお一人なので、「私の『医人』たちの肖像」の一人に取り上げた。今日は古い資料を紐解きながら「精神保健」に触れた。
（2020.10.19）
（私の「医人」たちの肖像―〔116〕清水将之さん②と座談会「世界精神保健連盟1993年世界会議」～1993年2月20日）
