TomyDaddyのブログ

毎日の健康管理の記録、新聞、雑誌、書籍等の読書について感想を書いていく。

ウイルスを味方にして活用―日本初の遺伝子治療技術―(面白い記事だな)

あいみっく」 Vol.42(2)2021、のEditorialに、藤堂具紀さん(東大医科学研究所先端医療研究センター先端がん治療分野教授)が、標記のタイトルで書いていた。藤堂さんが開発した悪性神経膠腫を適応症としたがん治療用ウイルスG47Δ(一般名テセルバツレブ)が厚労省から承認されたことは既に触れた。標記のEditorialは、実に興味深いことが書いてあるので、概要を記憶と記録のためにまとめる。

 まず、ウイルスについての記述が興味深い。新型コロナウイルスのまん延でウイルスは恐ろしい敵とのイメージが定着したが、ウイルスは役に立つのである。このことは、このブログで紹介した石田名香雄さんも西岡久寿弥さんも言っていた。ウイルスは病気の原因にもなるが、同時に分子生物学のツールなのである。

 <ウイルスは複製するために細胞に感染するが、細胞内に外来の遺伝情報を導入する、という機能に着目すると、効率性でウイルスに優るものはない。遺伝子治療とは、遺伝子もしくは遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与して外来の遺伝子発現による効果で治療を行うこと、が基本的定義であるが、特定の塩基配列を標的とするゲノム編集や、遺伝子導入の道具(ベクター)として長年用いてきたウイルス自体を治療に使うウイルス療法も広義の遺伝子治利用に含める。

 こういう視点からみると、新型コロナウイルスワクチンも広義の遺伝子療法ではないか。

遺伝子治療の開発は、欠落する機能を代償すれば治療効果が得られる単一遺伝子疾患から始まった。>
 ADA欠損症に対する、最初の遺伝子治療が単一遺伝子疾患の具体例だろう。
<第一例目から30年以上が経過して技術は格段に進歩して、世界で遺伝子治療の実用化が急速に進む。承認された製品は単一遺伝子疾患を対象とするものが多い。一方、いま世界の遺伝子治療の三分の二はがんを対象とし、感染症生活習慣病などへの応用も進む。新型コロナウイルスワクチンも、コロナウイルスの遺伝情報をメッセンジャーRNAやDNAの形でヒトの細胞内に導入して発現させる遺伝子治療であることはあまり知られていない。今や遺伝子治療開発と通常の医薬品開発との差はなくなった。>

ウイルス療法って何

<ウイルス療法とは、増えるウイルスを用いてがんを治す新しい治療モダリティーである。ウイルスゲノムを遺伝子工学的に設計して、がん細胞ではよく複製し正常細胞では全く複製しないウイルスを人工的に作る。がん細胞に感染したがん治療用ウイルスは複製・がん細胞破壊・拡散を繰り返し、直接的殺細胞により治療効果を発揮する(即時効果)。更にウイルスと破壊がん細胞が共に宿主免役に排除される過程で、特異的がん免疫が惹起されて免疫を介した治療効果を生じる(遅発効果)。G47Δは世界初の第三世代の癌治療用ヘルペスウイルスで、ウイルスを味方にして活用する典型と言える。抗がんヘルペスでは、全ての固形がんに同じメカニズムで同じように作用する点で、既存の癌治療薬と異なり、むしろ放射線治療に近い。一方、前述のようにに二段階で働くために、局所治療が免疫を介して全身に作用する、という新しい治療パターンを呈する。>

 「日本は世界最先端の遺伝子治療技術を有する。問題点を早く克服して、基盤技術を更に発展させて、日本が遺伝子治療医開発と創薬において世界をリードすることを期待したい。」
 このように、藤堂さんは標記のEdigtorialを結んでいる。日本では、遺伝子知力に関して規制と制度のハードルが高いことが、研究の進展の足かせになっているようだ。それでも、1990年代の初期に始まった遺伝子治療は随分進んできたことがわかる。