乏しい人生経験しか持っていない私には人生を楽しむという術がない。しかし、本を読む喜びは知っている。もしかしたら、この喜び・慶び・歓びを持っている価値は大きいのだと思う。世には万巻の書物がある。
さて、家内の脳神経センターでの受診と会計が済んで、処方箋を抱いて薬の出る順番を待っていた。『わが歩実みし精神医学の道』を読むのに夢中になっており、薬の出る順番の掲示板を見落としてしまった。
いよいよ、本書の後半、第XIX章の「学会の盛衰を中心として」まで読んできた。この章を読むと、精神医学という領域が日本の医学研究の中で、遅いものだったことを知った。この章を読んでいて、楢林博太郎先生が何と、内村祐之さんのお弟子さんだったことを知った。」
内村さんは、「精神科医による神経学的業績」の項で次のように書いている。
<まず、戦前のものでは、高橋角次郎君が偶然のことから成功した、椎骨動脈の経皮的脳動脈写の仕事がある。・・・・・・戦後の代表としては、楢林博太郎君の定位的脳手術の作製と、これによる臨床経験とを挙げたい。>
ここで、私にとって懐かしくもある、楢林博太郎さんの名前に接した。内村さんの、この本は、回想録として自らの来し方を実に平易なかつ謙虚に書かれている。この本を読んだ若き日の尾身 茂さんが医学を志したのも宜なるかなである。