（5）「私のC型肝炎物語」 第1章： 非A非B型肝炎ウイルスからC型肝炎ウイウイルス（HCV)へ― エイズウイルス発見論争再燃： 1990年～1991年
Ⅽ型肝炎ウイルスとは離れるが、時代背景としてエイズ（AIDS）ウイルス発見についてここでもう一度触れておきたい。
■エイズウイルス発見論争再燃■
- 1990年6月18日：
「エイズウイルスだれが発見―論争再燃―仏のモンタニエ博士か―米のギャロ博士か」
上記の見出し躍る記事が、1990年6月18日の朝日新聞に掲載された。「エイズウイルスの発見者は米国立がん研究所のロバート・ギャロ博士か、フランスの国立パスツール研究所のリュック・モンタニエ博士か―。決着がついたはずの論争が再燃している。（ロンドン＝竹内敬二特派員）」 フランスのシラク、米国のレーガン、当時の両大統領まで登場して和解に決着したはずのエイズウイルスの第一発見に関する優先権の決定は振り出しに戻った。
■世界エイズデー■ ●1990年12月1日：
1990年12月１日（土曜日）は、第3回世界エイズデーだった。毎年12月１日が「世界エイズデー」と制定されたのは、C型肝炎ウイルスが発見された1988年のことだった。エイズの方が焦眉の課題だったことが分る。
東京・平河町の日本都市センター・ホールで、この日に記念シンポジウムが開かれた。日本都市センターは、作家の森村誠一さんが若き日にホテルマンをしていたホテルだ。近くに文藝春秋社がある。このシンポジウムを取材して、「世界エイズデー記念シンポ開催」という記事を、週刊医学界新聞の第1926号に掲載した。エイズの動向が新聞、テレビや週刊誌を連日のように賑わせていた。何冊かの雑誌が手元にある。週刊誌のエイズ特集企画は凄まじい。医学専門誌や科学誌も、同じころ解明されつつあった成人Ｔ細胞白血病（ATL: Adult T-cell Leukemia）と絡めた特集を挙って企画していた。エイズウイルスもＡＴＬウイルスも共にレトロウイルスであった。
「エイズ発見論争―仏の学者に軍配－米学者が主張を取り下げ」。
1991年5月31日（金）、読売新聞夕刊に次のような記事がある。ＨＩＶ（エイズウイルス）発見の優先権をめぐる事件だ。記事は（ワシントン30日発共同）となっており外信ニュースだ。
「ギャロ（NIH）が発見したと発表してきたウイルスは、フランスから確認試験のために送られたウイルスだったことをギャロが認め、論争は事実上決着した」との記述がある。
■エイズ発見論争決着■ ●1991年6月3日：
「エイズ発見論争―「仏学者に軍配」で決着。ギャロ博士―不透明な主張。見逃さなかった米科学界」という見出しが、1991年6月3日（月曜日）、読売新聞の科学欄に躍っていた。
「疑惑の博士に日本国際賞―急ぎ過ぎの批判も」の記事も併載されていた。日本版のノーベル賞を目指して、1985年に創設された「日本国際賞」がギャロ博士とモンタニエ博士に、「エイズウイルスの発見と診断法の開発」の業績で1988年に贈られていた（賞金は1250万円）。
この時の一連の報道を経てエイズウイルス発見者は、仏のモンタニエであることが確定された。エイズウイルス発見の優先権をめぐる経緯は科学研究における不正の具体例として、多くの物語が内外で著されている。
「エイズウイルス発見」の業績で、ノーベル生理学・医学賞がモンタニエ博士に授与されたのは、この時から18年後の2008年であった。
（「私のＣ型ウイルス肝炎物語」第１章：〔5〕エイズウイルス発見論争再燃：1990年～1991）
