TomyDaddyのブログ

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私の「医人」たちの肖像― (40 ) Howard M. Teminさんと講演「癌ウイルスの進化」 ~1985年5月31日(金)

(40)Howard M.Teminさんと講演「癌ウイルスの進化」~1985年5月31日(金)

 

   1975年のノーベル生理学・医学賞受賞者であるテミン博士が、「癌ウイルスの進化」というテーマで講演した。東京築地の国立がんセンターで開かれた国際がん研究講演会においてのことだった。この講演を取材して、医学界新聞・第1655号(1985年6月24日付)で紹介した。
 同紙の掲載記事から少し引用する。
■逆転写酵素の偉大な業績■
●1985年5月31日(金):

 「ハワード M.テミン(Howard Martin Temin)博士による「癌ウイルスの進化」(Evolution of Cancer Virus)」と題する講演会が、1986年5月31日、東京・築地の国立がんセンターで行われた。これは『対がん10ヶ年総合戦略』の基本方策である国際協力の推進に基づく国際癌研究講演会の一つとして、(財)がん研究振興財団の主催で開かれた。テミン博士は分子生物学のセントラル・ドグマを覆すとともに、その後の癌研究にも多大なインパクトを与えた逆転写酵素(reverse transcriptase)の発見(1970年)で、Baltimoreと共に1975年のノーベル生理学・医学賞に輝いたことは余りにも有名である。」
■癌遺伝子を抑えるanti-oncogene ■
 「テミン博士は今回の講演でも長年にわたる癌ウイルス研究の経験から、人の発癌メカニズムには多くのステップがあるが、癌遺伝子の活性化の機構は人でもウイルスでも同じであることを示した。さらに、癌遺伝子(oncogene)に対して、その働きを抑えるような癌抑制遺伝子(anti-oncogene)が網膜芽細胞腫などで知られており、癌遺伝子をリン酸化するような酵素活性があり、それが癌遺伝子を抑えているらしい、と述べた(後略)。」
 
私が撮影したテミン博士の講演中のスナップ写真を、上掲の記事に挿入した。テミンさんは、とても若くて細身の研究者然とした風貌であった。今回のブログ記事作成にあたり、テミンさんの履歴を調べてみた。
■Howard Temin―1975年ノーベル生理学・医学賞を受賞■
 
テミン博士は、1970年代に、ウイスコンシン大学マディソン校で、逆転写酵素を発見し、独立して逆転写酵素を発見していたデビッド・ボルティモア(David Baltimore)及び腫瘍ウイルス研究のレナート・ダルベッコ(Renato Dulbecco)と共に、ノーベル生理学・医学賞を1975年に受賞した。さらに、テミンさんは腫瘍ウイルスが逆転写酵素を使って宿主の細胞の遺伝情報をどのように書き換えるかを明らかにした。逆転写酵素の発見は、遺伝情報がDNA→RNA→タンパク質へと一方向に流れるというセントラル・ドグマの概念に修正をせまるものであった。
■テミンさん―肺がんで死す■
 
テミンさんは、1934年アメリペンシルバニア州フィラデルフィアで生まれた。そして1994年12月10日に肺がんで59歳の若さで逝去された。1985年の来日から9年後のことである。長い間、喫煙の反対論者であったという彼が、なぜ肺がんで倒れたのだろう。
 1994年にテミンさんが逝去され折に、日本の生物学雑誌『蛋白質核酸酵素』(Vol.39 No.10)が、テミンの研究室に1970年代に留学していた水谷哲博士の追悼文を掲載していた。それによると、逆転写酵素発見に関するNature誌への論文の著者名は、投稿時には水谷哲が筆頭であったものが、掲載時には、Nature誌の判断でTemin、水谷と順番が入れ替わったという。
(2019.2.18)
(私の「医人」たちの肖像―〔40〕Howard M.Teminさんと講演「癌ウイルスの進化」~1985年5月31日)