TomyDaddyのブログ

毎日の健康管理の記録、新聞、雑誌、書籍等の読書について感想を書いていく。

日の名残りを読んで思うこと―人生、夕方が一番いい!

 
カズオ イシグロ の 「日の名残り(土屋政雄 」が稲城図書館の返却棚で、僕に読んで欲しいと微笑んでいた。早速、借りて読み始めた。晴耕雨読なんて言わないが、一冊の本を携えて旅に出たいような気がして来た春のはるひ野である。タイトルの「日の名残りに」に影響されたのか、「日の移ろい」を感ずる。このタイトルは島尾敏雄の小説だと知った。「日の名残り」を読み始めるとなんだか哀しい物語のように思える。これも旅の道中における主人公の話しである。フォークナーを想い起した。
 5日間くらいで読み終えた。哀しいのだが心が温まる話であった。品格ある執事の道を一筋に追求してきた主人公スティーブンスの晩年の短い旅のなかで語られる物語である。若き日にほのかに心を寄せていた女中頭(仕事仲間だ)ミスケントの気持ちに気がつかないほど鈍感で野暮な仕事一筋のスティーブンスだが今のでは十分に老いた。そして降ってわいたように与えられたドライヴ旅行でミスケントに会いに行くまでの数日間の心象風景がたんたんと描かれる。ミスケントは、「もしかしたらあなたと歩む別の人生があったかもしれない」と心のうちを初めてうちあける。スチティーブンスもまた別の人生を歩むことができたのだろうか? 長くなるが以下に私のこころにひびいた場面を引用する。小さな旅のおわりに主人公が偶然にあった男(年寄り)との会話の場面である。翻訳者の土屋さんは実にうまい。カズオ・イシグロはこの作品で英国の芥川賞(?)「ブッカー賞」を得た。

 「なぁ、あんた、あんたの態度は間違っとるよ。いいか、いつも後ろを振り向いていちゃいかんのだ。後ろばかりを向いているから、気が目滅入るんだよ。何だって? 昔ほど上手く仕事ができない? みんな同じさ。いつか休むときが来るんだよ。わしを見てごらん。隠退してから、楽しくて仕方がない。そりゃ、あんたもわしも、必ずしももう若いとは言えんが、それでも前を向きつづけなくちゃいかん」そして、そのときだったと存じます。男がこういったのはーー「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一番いい。わしはそう思う。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だっていうよ」
 「たしかにおっしゃるとおりかもしれません」と私は言いました。