TomyDaddyのブログ

毎日の健康管理の記録、新聞、雑誌、書籍等の読書について感想を書いていく。

「第一章 三 アウステルリッツ」(『戦争と平和論』、本多秋五)を読み継ぐ〜 「アンドレイと高い空」だ

 「第一章 三 アウステルリッツ」(『戦争と平和論』、本多秋五)を読み継ぐ。アンドレイが負傷する場面はこうだ。

 <忽ちロシア軍は雪崩をうって潰走する。・・・・馬から飛び降り、軍旗を拾い上げたアンドレイは、ウラーと叫んで突進する。固い棒で力一杯撲りつけられたような感覚を、彼は頭に覚える。撃たれたアンドレイは仰向けに倒れる。倒れたままの姿勢で、ふたたび彼が正気に返ったとき、『測り知ることのできないほど高い空と、その面を匍匐ってゆく灰色の雲」とが、彼の眼に映じた。雲は悠々と流れている。
 「何という静かな、穏やかな、荘厳なことだろう。我々が走ったり、喚いたり、争ったりしていたのとは、まるっきり別だ。どうしておれは、今までこの高い空をみなかったんだろう?・・・そうだ! この無限の空以外のものは、みんな空だ、偽りだ。」

 有名なアンドレイの負傷した頭で見上げた「高い空」の場面だ。一八〇五年最初の従軍で、アンドレイは負傷して、ナポレオン軍の俘虜となる。この辺りの記述を、本多さんは次のように読み解いている。

 <先走っていえば、『戦争と平和』の物語全体は、ピエールの悟りのうえに、「アウステルリッツの高い空」が懸っているところにある、といえる。その意味で、「アウステルリッツの高い空」は、物語の最後まで消えずに残る。それは茫漠としている。それだけに意味広範である。>

 頭部を撃たれて重傷を負ったらしいアンドレイは、アウステルリッツでは死なない。それどころか、ロシアに戻っていくのである。物語の中でで、ナポレオン軍とロシア軍との間で俘虜交換がなされたという記述はない。読んでいて、それが不可解であった。