ノーベル医学・生理学賞「低酸素応答」とは?

 ノーベル賞の授賞式は、アルフレッド・ノーベルの命日にあたる12月10に開かれる。今年のノーベル生理学医学賞は「細胞の低酸素応答」の解明の業績で3人の研究者に贈られる。受賞者は、ウイリアム・ケーリン、ピーター・ラトクリフ、グレッセ・セメンザの三人である。報道で見た三人とも比較的若い(50歳~60歳台?)ようである。ケーリンは、ボストンのダナ・ファーバーがん研究所でがん生物学者として1991年から研究を続けている。2002年にハーバード大学医学大学院の教授に就任。1998年からハワード・ヒューズ医学研究所の研究員でもある。ラトクリフは、1990年にオックッスフォード大学で低酸素症に特化した研究室を設立し1996年には教授に就任した。また、ロンドンのフランシス・クリック研究所臨床研究を指導している。セメンザは1990年から同大学の細胞工学研究所で血管生物学の研究プログラムを指揮している。

 ■低酸素応答のメカニズム■
 1990年代から2000年だいを通して受賞の三人は、低酸素誘導因子(HIF:Highly Involved Factor)と呼ばれる酸素に敏感なタンパク質の作用の解明に、それぞれ取り組んでいた。こうした中で解き明かしたのが、細胞内においてタンパク質を分解する酸素複合体(プロテアソーム)が高酸素状態においてHIFを分解するメカニズムだった。プロテアソームは高酸素状態においては、HIFを分解する作用を持つ。一方で、酸素レヴェルが低下すると、今度はHIFを増やしてホルモンの産生を促進し、赤血球や血管をつくるように促す。こうした一連のメカニズムを三人が明らかにした。
 ノーベル委員会の委員のランドール・ジョンソンは次のように語る。「このような基礎的な発見は、人体にあらゆる要素に影響を及ぼします。広範囲に適用できる発見であると言えます。」事実、彼らが解き明かした分子の反応経路に細工する薬剤は、体内の赤血球の活動を促進して貧血を治療する薬として、すでに中国で承認されている。ほかにも、同じ発見に基づき、ある種のがんの治療薬として開発中のものがある。(以上は、インターネットの記載から概要をまとめた)

 閑話休題。このブログで随時載せているシリーズ「私の『医人』たちの肖像」では、その年のノーベル生理学・医学賞にも何回か触れている。毎年、10月にノーベル賞受賞者とテーマが発表されると、まず受賞記事を掲載し、次いで関連した解説記事を執筆してくれそうな研究者を捜して原稿依頼やインタビュー記事を作成して載せるのが常だった。これが医学界新聞の担当者の楽しみな仕事の一つでもあった。1985年のブラウン、ゴールドスタイン両博士の場合は同研究室の留学から帰ったばかりの北 徹さん(当時は京都大学・医学部助手)に解説記事を執筆していただいた。さて、昨日到着した医学界新聞・第3349号(2019年12月2日付)に、広田喜一さん(関西医科大学附属生命医学研究所侵襲反応制御部門学長特命教授)が、上記件のノーベル生理学医学賞に関連して寄稿している。タイトルは、「HIF;Highly Involved Factor ―ノーベル医学・生理学賞「低酸素応答」の医学的意義と今後の展開」である。広田さんの解説寄稿文から少し引用する。
 「受賞研究をより具体的に述べると、1980年代の終わり頃にその端緒が見いだされたリスロポエチン(erythropoietin: EPO)の発現維持・誘導の分子機序について説明する因子として単離された低酸素誘導因子(hypoxiainducible factor;HIF)と、その酸素分圧依存性の活性調節の分子機序の回目です。」
 広田さんは、麻酔科の医師として、米国ジョンズ・ホプキンス大学のセメンザ(Semenza)研究室に1999年8月から2002年2月まで京大からの訪問教授として参加していたとのことだ。広田さんお寄稿文に次のような記載もあった。「今回の受賞者は3人とも医師資格を持つ基礎研究者です。つまいphysician scientisit, MD-scientissitと呼ばれる人たちです。カーリン(Kaelin)氏は泌尿器科、ラトクリフ(Ratcliff)氏は腎臓内科、そしてセメンザ(Semenza)氏は小児科が出自です。」

 ノーベル賞の授賞式は来週(12月10日)なので各種の解説記事が新聞にでるだろう。上記で触れた広田さんの特別寄稿はタイムリーで分かり易い記事だ。