TomyDaddyのブログ

毎日の健康管理の記録、新聞、雑誌、書籍等の読書について感想を書いていく。

『富士』武田泰淳を読み始めた

 『富士』(中央公論)は、昭和46年11月7日に初版が発行だ。昭和46(1971)年4月1日から、私は東京の医学系出版社で働き始めた。よど号のハイジャック事件が起きたのが、昭和45(1970)年3月31日だった。その頃、泰淳さんは、『富士』の最終場面を書いていたらしい。書きあぐねていたところ、あの事件が起きて、『富士』の最終章の筆が進んだと何処かで泰淳さんが書いていたのを読んだ気がする。
 『富士』の舞台は、富士山麓の精神病院である。『序章 神の餌」を読んでみると、富士山の山小屋周辺の自然とリスの様子が描かれている。泰淳さんは、富士山に別荘を持っていて、奥さんの百合子さんの運転する車でこの別荘に行っている。もしかしたら、別荘と言うより、寒い冬場を除いてここで執筆していたのかもしれない。泰淳さんが小説『富士』を書いている一方で、百合子さんは日常の生活を『富士日記』として書きとめていたのだろう。富士日記は、泰淳さんの死後に世に出た。
 「第1章「草をむしらせて下さい」、第2章 美貌青年と哲学少年、まで読んだ。この小説の主人公というか、語り手は、若い精神科の医師である。時代は、太平洋戦争の最中のようだ。舞台の精神病には、様々な患者が入院している。そこへ、憲兵隊の火田軍曹がやってくる。精神病院には、徴兵拒否のために患者の振りをして逃げこんでいるものがいないかを探りに来ているようである。火田軍曹と主人公の医師との会話が延々と繰り返されている。退屈とも思えるこの物語を少しずつ読んでみよう。