雑誌「BRAIN and NERVE―神経研究の進歩」が、2019年11月増大号で、「ALS2019」という特集を掲載している。ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、原因も不明で確固とした治療法も見つかっていない進行性の神経難病の一つである。英国の理論物理学の泰斗でホーキング博士がこの病に苦しんでいたことで知られる。最近は昨年の秋、山本太郎率いる令和新撰組から立候補して参議院議員なられた船後靖彦さん(61歳)がALS患者であることから一般にも知られる。
さて、上記に紹介した雑誌ではシャルコーによる最初の記載から150年に及ぶALS研究の進歩と今後の展望に触れている。内容のタイトルは以下のようだ。
(1)ALSの疫学と発症リスク(成田有吾)
(2)診断基準と電気診断の変遷(野寺裕之)
(3)Split Hand --ALSに特徴的な神経徴候(澁谷和幹)
(4)ALSの病理(吉田眞理)
(5)家族性ALS(鈴木直輝・他)
(6)TDP-43封入体から解くALSの分子病態(坪口晋太朗・他)
(7)C9or72ーー日本のALS/FTDにおけるインアパクト(富山博幸)
(8)プリオノイド仮説の現状(野中隆)
(9)ALSにおける患者レジストリの役割ーーJaCALなど(熱田直樹・他)
(10)ALSとFTD(渡辺保裕)
(11)紀伊ALS/PDCの現状(小久保康昌)
(12)HGFによる治療法開発(青木正志・他)
(13)メコバラミン(和泉唯信・他)
(14)孤発性ALSに対するペランパネル(相澤仁志、郭伸)
(15)ロピ二ロール塩酸塩ーーiPS細胞創薬(高橋伸一・他)
(16)ALSにおける免疫療法開発の現状と展望(漆谷真・他)
ALSは依然として難病であるが、分子病態や原因遺伝子が明らかにされ治せる病気へと一歩ずつ着実に進んでいるようだ。複数の治験が進行中であり、2019年におけるALSを取り巻く現状、今後の展望が多方面から論じられているとのことだ。
この雑誌の増大特集号は3800円(+消費税)だから高価だ。だがそれだけの価値のある内容だと思う。こんど都内に出た折には専門店にゆくか東大図書館で閲覧してきたい。この雑誌は「脳と神経―BRAIN and NERVE」と「神経研究の進歩」という二つの雑誌を統合して1つにして、「BRAIN and NERVE―神経研究の進歩」という新雑誌として再出発したものだ。その作業に今から15年前に発行元の出版社に勤務していた私は関与した。日本の医学雑誌であるが、米国のIndex Medicusに収載されている格調の高い雑誌の一つだ。この雑誌が順調に育っているようでうれしい限りだ。