TomyDaddyのブログ

毎日の健康管理の記録、新聞、雑誌、書籍等の読書について感想を書いていく。

「ウイルス研究 長い道のり : 福岡伸一さん ノーベル賞から考える」を読んで思うこと

「ウイルス研究 長い道のり :  福岡伸一さん―ノーベル賞から考える」を読んで

 

 「C型肝炎ウイルスの発見」に対して、今年(2020年)のノーベル生理学・医学賞が決まったことは既に触れた。最近の科学記事の分かり易さと的確さは、福岡さんの解説が一番である。先日(2020年10月22日)の朝日新聞(朝刊)に、標題の記事が載っていた。知識の整理と記憶のため概要をまとめて記録しておく。

 <1970年代まで、C型肝炎ウイルスも未知の「新型」ウイルスでした。検出法も治療法もなく、どう対処したらよいかわからない。暗中模索の状況で、恐れられていました。この二つを重ね合わせてウイルス研究について考えてみます。>  私の肝臓関連の検査数値は高いままでお酒が原因とばかり思っていた。逆に言うとそのお蔭で節制をしたのが、私の健康管理によかったのだろう。

 <このノーベル賞には、研究の時間軸が如実に表れている。当時、ウイルス性の肝炎が存在していることは知られていて、A型とB型に分類されていた。けれども、A型、B型のウイルスがない患者の血液でも、他の人に輸血すると肝炎になることがありました。「非A非B型」肝炎と名付けられましたが、原因は謎のままでした。>  全くそうでした。非A非B型肝炎ウイルス(NANB)と呼ばれていたんだ。

 <それを突き止めるためには、小型の実験動物であるマウスやラットに感染させて実験する必要があるが、研究はなかなか進みませんでした。そんな中で、今回の受賞者の一人、ハーベイ・オルターさんたちはチンパンジーなら感染することを見つけ、動物で実験する仕組みを確立しました。1970年代の後半の話です。>  そうなんですね。私は1971年に医学関係の出版社に職を得ました。ロシア文学科を卒業して文学少年の端くれだった私は、「医学って人間学だから文学と近いな」と感じたのを覚えている。必要にかられて、医学用語から勉強をし直しました。「細胞の分子生物学」という高い翻訳書も大枚をはたいて買って読んだ。

 <コロナウイルスだったらトゲトゲがあります。こうした形が見えて初めてウイルスの存在は明らかになりますが、C型肝炎ウイルス電子顕微鏡で見てもウイルスの粒子が見当たりません。ずっと後になり、粒子の大きさが不ぞろいで、ウイルスを集めることが難しいことがわかりますが、当時はなぞが深まるばかりでした。>  そうなんだ。最近、「見える化」という言葉が流行っていますね。「見る技術の進歩」というタイトルの特集企画を、医学界新聞で掲載したことがあります。普通の顕微鏡から光学顕微鏡、電子顕微鏡、レントゲン発見、CT開発、MRI画像の発見と、「見る技術の進歩」が、医学研究を進めてきたんですね。

 <次の展開が起こるまでに10年以上かかります。共同受賞のマイケル・ホートンさんは当時ベンチャー企業に勤めていました。(これがカイロン社)ホートンさんの研究成果は、私(福岡さん)がロックフェラーのポスドク(博士号を持っている研究員)時代に華々しく発表されたので、とても印象に残っています。当時すでにPCR法は開発されていましたが、未知のウイルス遺伝子は検出できません。それが大きな壁でした。>  ホートンさんたちの方法は何ていいましたっけ?当時、日本の研究者もNANBウイルスの遺伝子捜しをやっていたんですね。

 <ホートンさんたちは、肝炎になったチンパンジーの血液にウイルスの遺伝子が紛れ込んでいるに違いないと考えた。これはたくさんの砂の中から一粒の砂金を探すようなものです。気の遠くなるような作業の末、ホートンさんたちはとうとう遺伝子の断片をみつけました。これがC型肝炎ウイルの発見です。>  この発見がなされたのが、1988年でしたね、たしか。ホートンさんたちは、直ぐに特許をとって、血液対策への対応が早かったですね。

 <さらに、ホートンさんたちがすごいのは特許の取り方です。タンパク質は自然物なので、当時、まるごと特許をとるのはなかなか認められませんでした。そこで、たんぱく質の配列を細かく区切って、これらすべての特許をとりました。これにより、他の製薬会社が追随できませんでした。>  特許のことは門外漢には難しい。オプシーボにつながった本庶佑さんの研究が、今、特許のことで製薬会社と訴訟になっていますね。それにしても、ホートンさんがC型肝炎ウイルスを発見したのに、当のカイロン社は、2006年にスイスのノバㇽティスに買収されて今は存在しない。

 <C型肝炎ウイルスの正体が明らかになり、遺伝子もたんぱく質も判明したので、輸血によるC型肝炎の感染を予防できるようになりました。でもこの段階ではまだ有効な薬はできていません。>  1990年代から2000年の初期には、インターフェロンくらいしか抗ウイルス薬はなかった。2006年に「PEGインターフェロン」注射で、私はC型肝炎の治療に挑戦したが駄目でした。

 <そこでもう一人の受賞者、チャールズ・ライスさんの登場です。・・・ライスさんは私(福岡さん)がニューヨークで研究拠点にしているロックフェラー代大学の先生です。・・・・・私はロックフェラー大に客員教授として戻った7年前から、ライスさんとは度々お会いしています。>  そうか、福岡さんは青山大学だけでなくて、ロックフェラー大教授も兼任しているんだ。

 ■確定へのコッホの三原則
 <病原体の確定には、「コッホの三原則」とういうものがあります。原則その1は、患者や動物からその病原体が見つかること。その2は、その病原体だけを取り出し、単一の実態があることを確かめること。その3は、とり出した病原体を健康な動物に接種した時に、同じ病気になり、再び病原体が検出されることです。>  「コッホの三原則」なんてあたりまえ」と思うけど、初めて実証するのは大変だよね。

 <ライスさんはこのウイルスを実験動物に投与すると発症するという、コッホの三原則の一番大切な三つ目を立証しました。もう一つの大きな業績が、試験管でこのウイルスを複製する仕組みを作ったことです。それが薬の探索に大きく役立ちます。画期的な新薬ハーボニー(レジパスビル・ソホスブビル)が承認されたのは2014年です。ざっと、50年ほどの研究の歴史が一つのウイルスをめぐってなされているのです。>  ハーボニーはギリアド・サイエンスが開発した。新型コロナウイルスの治療薬としても投与されている「レムデシベル」は、ギリアド・サイエンスがエボラ出血熱の治療薬として開発したものだ。共に1本鎖RNAウイルスであることから、新型コロナウイルスの治療薬としても承認されたが、その効果についての評価はまだ揺れているようだ。それにしても、福岡さんの解説は明快ですね。福岡さんは次のように纏めている。

 <遺伝子研究の技術は大幅に進んでいますが、ウイルスの正体を明らかにし、薬が開発されるまでには、長い時間が費やされることがわかります。新型コロナウイルスに悩まされている私たちも、「年末までに」とか「来年までに」という解決は幻想です。新型コロナウイルスがインフルエンザのような身近なものに変わるのにはまだまだ時間がかかることをC型肝炎の研究の歴史が教えてくれています。>

 この記事は、「談」となっているので、取材記者が福岡さんにうかがってまとめた記事のようだ。福岡さんは、C型肝炎ウイルス研究の歴史に学び、新型コロナウイルスに関しても長期的な対応が必要と述べている。私は自らのC型肝炎ウイルス罹患とその長期にわたる経過観察の経験から、実はC型肝炎ウイルスに罹患したから今まで長生きしたのかもしれない、と考えるようになっている。C型肝炎ウイルスを抱えていたからこそ健康に留意して、大酒にのみにならずに済んだのかもしれない、と考え直している。新型コロナウイルスについても、この新しい感染症の登場によって、私たちは手洗いを初めとして感染症対策に一層留意するようになった、と言えるのではないだろうか。もしかしたら、長い目で見るとコロナウイルスの出現は、人類の総体寿命を延ばすことにつながるのかもしれない。

 本日は、標記の記事に触発されて長い引用をしながら感想を述べた。

(2020.10.24)