中井久夫さんの『こんなとき私はどうしてきたか』は、2007年5月25日に出た。この本の「2 治療的「暴力抑制論」の中に「患者さんを安全に抑える方法」という項目がある。その中にこういう件があった。
<「暴力」をタブーにしてはいけない
「患者さんからの暴力」という問題に付いてはあまり本もなく、講義を受けることもなかったのではないでしょうか。
私が大学医学部の教師になったときに驚いたのは、卒後の研修で暴力の問題に全然触れられていないことでした。現に患者さんの暴力があるのに、それがいわばタブーになっていたことは、患者さんにとっても不幸であると思います。
「患者さんの暴力を防ぐ」といいますと、どうしても治療者の身を守ることに重点が行ってしまいますね。だから、つい患者さんと対立するような感じをもってしがいがちでししす。
今度はじめて、暴力についてのテキストブック(『医療者のための包括的暴力防止プログラム』(医学書院)が出ましたけれども、これも最初はちょっとそういう感じがありました。私は編集部から意見を求められて「患者さんが暴力をふるうということは、患者さんにとて身体的な不利益だけでなく、社会的な不利益を生む。暴力で反応する習慣を患者さんがもたないことは、社会復帰のうえでとても重要なことだ。それは治療の一部なんだ」と言いました。>
先日から中井久夫さんの『家族の深淵』(1995年刊)を読んでいる。その途中で中井さんは医学書院から『こんなとき私はどうしてきたか』(2007年)を出していたではないかと思いだした。この本が「ケアを開くシリーズ」の一つであることも思い出した。稲城図書館から借りてきた。そして、上記のような部分を読んで引用転記した。
『こんなとき私はどうしてきたか』(2007年)より2年も前に『医療者のための包括的暴力防止プログラム/包括的暴力防止プログラム認定委員会(編著)』(2005年、医学書院)が出版されていた。この本はどのような経緯で出版されたのであろうか。思い出した。この本が刊行された2005年に、何処からは記録も無いがある筋(不明)から』抗議文が出版元の医学書院に届いた。「暴力を容認するような内容なので直ちに刊行をとりやめ出版物を回収せよ」というような内容だった。そこで、件の『医療者のための包括的暴力防止プログラム/包括的暴力防止プログラム認定委員会(編著)』を読んでみると暴力を容認するような内容は全くなく、むしろ患者と共に医療従事者を暴力から護る(回避する)内容の本であった。この読者からの抗議文に対して全うの反論の手紙を書いて返送した記憶がある。この本がそのご午どのような経緯を辿ったかは調べていない。
以上のような記憶を踏まえて『家族の深淵』(1995年刊)を一時的に中断して、中井久夫さんの『こんなとき私はどうしてきたか』を再読してみたい。
<本書は、2005年6月~2006年10月まで、兵庫県の」有馬病院でおこなわれた「医師・看護師合同研修会」での講義内容をまとめたものである。>
中身は次のような章立てである。
1.こんなとき私はどういうか
2.治療的「暴力」抑制論
3.病棟運営についていくつかのヒント
4.「病気の山」を下りる
5.回復とは、治療とは。。。・
(続く)