TomyDaddyのブログ

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私の「医人」たちの肖像―(91)和田昭允さんと「ヒトゲノム計画」 ~1990年12月3日(月)

(91)和田昭允さんと「ヒトゲノム計画」~1990年12月3日(月)

 

   1990年というと、1980年代に始まったヒトゲノム解析プロジェクトが、世界的規模で佳境に入った頃だった。この日から2週間前1990年11月21日(火)に「ゲノム大公開時代の幕開け」というテーマで、松原謙一先生にインタビューしたことは、既に紹介した。
和田昭允さんと「公開ワークショップ:知識情報処理技術とひとゲノム計画」
●1990年12月3日(月)~4日(火):
 
「公開ワークショップ:知識情報処理技術とひとゲノム計画」が、港区芝公園の機械新興会館地下ホールで、1990年12月3、4日の両日、開かれた。(財)新生代コンピュータ技術開発機構:遺伝情報処理ワーキンググループ、文部省科学研究費総合研究A:「ヒトゲノムプログラム推進に関する研究」(代表=松原謙一 大阪大学細胞工学センター)、文部省科学研究費総合研究B:「ゲノム解析に伴う大量知識情報処理の研究」(代表=金久 實 京都大学化学研究所)が共同主催であった。両日とも取材に行った。
 12月3日(月):13時10分~14時には、招待講演「ゲノムプロジェクトの現状と展望―バイオインフォマティックスへの期待(榊佳之・九州大学遺伝情報実験施設)」を聞いた。
 12月4日(火):招待講演「わが国における遺伝子情報プロジェクトのあるべき姿」(和田昭允・相模中央化学研究所)を取材した。
日本のヒトゲノム計画の牽引車の和田さん
 
日本の「ヒトゲノム計画」を一貫して主導していたのが、和田昭允さん(東京大学教授・理学部)だった。1990年に東大を定年退官したあと、相模中央化学研究所(1990~2001年)、理化学研究所ゲノム科学総合研究センター所長(1998~2004年)、等を歴任された。
 和田さんとは、直接の面識はなかったが、「ゲノムプロジェクト」に関連して、機会ある度に講演をお聞きして、記事にしてきた。忘れ得ぬ私の「医人」の一人なのでこのシリーズにとりあげた。
ヒトゲノム解析計画―OTA報告書
 今回、1990年代の資料を整理していたら、興味深い以下の資料がでてきた。「ヒトゲノム解析計画―遺伝情報を解読する巨大プロジェクトの全容」(米国議会技術評価局(OTA)報告書:監修=渡辺 格、訳=伊藤敏雄)というものだ。これは、雑誌Newtonによる特別号で、1990年9月に教育社から出版された(定価2300円)。監修者の渡辺 格さん(慶応義塾大学名誉教授)による、日本語版への序文に以下の文言がある。
 「ヒトゲノム解析計画は生物学や科学技術だけでなく医学全般の発展に多大な貢献を果たすとともに、『人間とはなにか』にこれまでまったく異なった知見を与えてくれることも間違いない。しかしこの計画は科学技術だけでなく社会的にも大きな影響を与えると思われるので、その推進計画には論議をつくし、社会的な理解を必要であろう。わが国においてもヒトゲノム計画は論議されるべきときにきている。」
 爾来、30年が経過した。トゲノム解析計画は、DNA二重らせん構造の発見(1953年)から50周年となる、2003年には既に完成した。それでは、ヒトのゲノム解析の解明により、「人間とはなにか」は、どの程度明らかになったのであろうか。この機会に、ヒトゲノム解析について記憶と記録のためにまとめておきたい。
■「ヒトゲノム計画」とは何か■
 
ヒトゲノム計画とは、ヒト染色体の遺伝情報(DNA配列)をすべて解読し、染色体のどこにどんな遺伝情報が書かれているかを明らかにしようとする計画である。ヒトの染色体には30億という膨大な塩基対があり、その解読に膨大な時間と費用が必要である。米国で「ヒトゲノム・プロジェクト」が、1985年に開始されたのを契機に、欧州や日本で計画がスタートした。日本では、1988年度から科学技術庁が、文部省が1991年度からヒトゲノムに関連したプロジェクトを開始した。これら各国の取り組みを調整するために、国際的に非営利の研究者団体ヒトゲノム解析機構(Human Genome Organization: HUGO)が、1988年に発足し、国際的研究の役割分担、研究費の調達、情報交換を支援している。なお、ゲノム解析には公的機関だけでなく、民間企業も活発に参加している。ヒトゲノムの研究は21世紀の産業基盤の基礎となることから、官民双方から研究が進められている。
 以上が、インターネット検索した「ヒトゲノム計画」の概要である。2003年にヒトゲノムの全貌が明らかになったとある。しかし、事はそう簡単ではなかったのだ。もっと調べてみると、こういう記述があった。
■ゲノムデータの解析はこれからだ■
 「
ゲノムデータを解釈する作業は、まだ始まったばかりである。ゲノム情報の解明は、医学やバイオテクノロジーの飛躍的な発展に貢献することが期待されている。そして、やがて癌やアルツハイマー病などの疾患の治療に役立つものになることが期待される。」
 遺伝情報が解明されたからといって、病気が直ぐに治るわけでないと知った。さらに、インターネットで調べると、村川泰裕さん(理化学研究所生命医科学研究センター)の次のような発言を見つけた。
 「基礎研究についていえば、私たちはまだ、生老病死という生命の基本原理すら理解できていません。ヒトの遺伝子は約2万個とされますが、実は今もなお新たな遺伝子が発見されています。ヒトゲノム計画を通じて解明された膨大な塩基配列の中には、まだ発見されていない未知の情報や暗号が大量に埋もれています。ヒトの寿命の限界は何歳なのか。ヒトが病気から完全に開放される日は来るのか。まだ発見されていないゲノム情報の解明を通じて、世界に1つしかないような発見を目指しています。」(インタビュー・コラム、2019.9.27)
 ゲノム解析の現状は、以上の段階なのだ。やはり、人間に限らず命あるものはやがて死が訪れる。生命の輪廻とはそういうものなのだ。
(2020.11.17)


(私の「医人」たちの肖像―〔91〕和田昭允さんと「ヒトゲノム計画」~1990年12月3日)