TomyDaddyのブログ

毎日の健康管理の記録、新聞、雑誌、書籍等の読書について感想を書いていく。

君和田怜の新刊『原子力空母を撃て!』を読み解く

 君和田怜の新刊『原子力空母を撃て!』を読み解く

 新しい形のSF小説誕生として捉えた。君和田怜さんの新刊『原子力空母を撃て!』を読み終えての印象だ。単なるSF(サイエンス・フィクション)ではなく、バイオサイエンス・フィクション(BSF:Bioscience Fiction)と言ってよいだろう。

 2020年のノーベル化学賞が、「ゲノム編集」に与えられたことは記憶に新しい。この技術が開発された2012年から8年後という早さで、ノーベル賞に輝いた。受賞したのは二人の女性科学者だ。少し前の2014年に「STAP細胞」論文捏造事件が起こり巷間を賑わしていたが、「ゲノム編集」は文字通りリケジョ(理科系女子)の快挙だった。

「ゲノム編集」とは、動植物などの遺伝子を、ねらい通りに壊したり新たに挿入できる技術である。この新技術「CRISPR/Cas9」(クリスパー・キャスナイン) は、従来の手法よりも格段に使いやすく、分子生物学に革命をもたらしたと言われた。「ゲノム編集」は遺伝子を操る技術なので、これを使うには倫理面や安全性の検討が欠かせないのは当然のことだ。中国の科学者が、この技術を使ってエイズウイルスに感染しにくい赤ちゃんを誕生させて、世界中の批判を受けたのは2018年の秋だった。

 上述した「ゲノム編集」の技術を底流に忍ばせながら、君和田怜さんは、「ゲノム編集」を密かにヒトに用いたデザイナーベビーの物語を展開する。主人公は鹿居純一という青年とクリスという米国人である。二人は横須賀米軍基地のサプライヤードに勤務する同僚である。物語の舞台は基地の街横須賀であり、実在する飲食店(飲み屋、バー、マーケット、等々)とそこに働く人間像が巧みに配置されている。 

 <僕に与えられた任務は、原子力空母「ロナルドレーガン」を爆破することだった。世界最強の巨大空母を爆破するという計画を最初に聞いたときは、僕は逡巡し、恐れ慄き、そしていままでの人生で一度も感じたことのない不思議な高揚感を覚えた。>

 荒唐無稽のようにもみえるが、知らないうちに進行しているかもしれない「本当のこと」を君和田怜さんは、コミカルにそしてケミカルに物語り、世に問いかけた。

 結末はどうなるのだろうか?それは読んでのお楽しみとして残しておこう。