『 J 』(延江浩、幻冬舎)を読み終えた。これは書下ろしの小説だ。作者の延江浩さんは1958年東京生まれのラディオのプロヂューサーとのことだ。映画「大鹿村騒動記」の原案作者でもあるという。小説家でもあるが『 J 』は書下ろしの小説とのことだ。参考文献として瀬戸内寂聴さん関連の本が50冊ちかく掲げられている。話の筋は母袋晃平という37歳のIT企業の経営者の友人が「J」すなわち寂聴さんの死後に彼女との恋仲の話というかセックスの話を告白したのをメモ書きして、それを元小説仕立てにしたものなのだ。よんでみると「こんなこともあっても不思議はないな」という気はするのだが・・・。
「母袋(もたい)はJのことをよほど誰かに話したかったのだろう。私は仰天して、痺れながらも手帖を取り出した。贅沢な恋愛をさせてくれたJと別れ、ただの男に なりさがって家庭に戻り、かつての恋人の死を知った母袋の声はしとしと降る小雨のように寂しげだった」
プロローグに書いてあるのを引いた。作者は母袋の告白をメモして、それをもとに「J」の小説、文献を集めて読み砕いて急いで小説にしたものだ。それにしても主人公の母袋(もたい)は「ははふくろ」、すなわち「子宮」ではないか。読んでみると小説としてはあんまりよいできではない。心に訴えるものがない。寂聴さんは井上光晴と別れ男を絶ったのではなくて最後まで男を絶たなかったということになる。そもそも男を絶つ必要もなかったのだろう。「女の性欲は灰になるまで・・・」とはまさに正鵠を射ているということなんだろうな。
読み終えてネットを調べると母袋にはチャンとモデルがいるらしい。「事実は小説より奇なり」ということなんだろうか?
今日の気になる本を書いておく。