山下澄人『月の客』を読んだ。稲城図書館で偶然に「すばる」9月号(2019年)を借りてきた。「すばる」が集英社の雑誌だということも今まで知らなかった。冒頭に、高橋源一郎「この素晴らしき世界」というのが新連載として載っていた。チェーホフの「三人姉妹」の神西清訳が随分ながく引かれていた。こんなのもありか、と思っていたら、『桜の園・三人姉妹』は神西清訳に拠ります、と最後に書いてあった。今、私は『三人姉妹』を原文で読んでいるのだが、100年も前の帝政ロシアの劇なんだから驚きだ。ロシアでも超インテリ貴族の上流階級が楽しんだ劇なんだと思った。姉妹は三か国語くらい読めるインテリなんだ。
それはともかく、高橋源一郎の連載の次に、『月の客 山下澄人』載っていた。「小説」と書いてあったから、小説なんだろうが・・・。ぱらパラメめくってみると、文章に、「まる」(読点)がひとつもない。「てん」(句点)はついている。「てんも「まる」も「ない文章が多い。しかし、行替え、段落替え、等はあるので読み易くはないが、読むと中味はわかる。「何ンなんだ、これは」と思いながら読み始めた。「トシ」という男の子、「サナ」という女の子が登場人物の中心とわかった。ときおり、関西弁の喋り言葉があるので、舞台は関西方面の路地裏のような、ごみごみした巣窟のようなところに住んでいる悪ガキの話と分かった。「ラザロ」とか、聖書の中の名前がでてきたりする。根源的なテーマについての物語ということも分かった。「ひとはなぜ生きるか」などという、表向きの問いかけではなくて、原初的な生老病死のような、ドロドロした物語なのである。読み始めたら止められず、最後まで読んでしまった。こんなのも「小説」ということになるのだと思った。この前、町田 康さんの「小説」に出会って以来の衝撃的な読書体験だ。最後に、次に引用する文章が載っていた。出版社が屋上屋を重ねたようだ。最近は気軽には本も出せないようなんだ。
「本作品においては、今日の人権意識に照らして不適切な用語が含まれる箇所がありますが、そうした言葉のもとで社会や人間の意識化に存在している人々の姿を描くこともまた文学の役割でらると考え、・・・・・そのまま掲載しております。」
そんなこんなで、最後まで読んで、作者の山下澄人って誰だかな?、とネットでしらべた。なんだ、2017年に「しんせかい」で芥川賞をとった、あの「富良野塾」にいた役者、劇作家ではないかとわかった。山下さん、受賞のあともいっぱい書いていたのだ。履歴をみるともう53~54歳くらいになっている。「月の客」はきわめて実験的な作りであると思う。別の作品も読みたくなった。