「大抵の病気は歩けば治ってしまう」というような趣旨を言っている人がいた。長尾和宏さん(関西方面の医師で、本をたくさん出している方)の本の広告でみたのだろうか。まさに、その通りであると思う。もちろん、足部や脚部に障害がある時に無理をして歩くのは百害あって一利なしだろう。ただ、昔から人類が狩猟生活で生きているときには、走って狩りをするのが日常であったろう。稲作文化の時代になって定住したとしても、耕作は重労働であり運動でもあったろう。古来の人類にとって、日の出と共に活動して、日に入りと共に休息して眠るのが自然であったはずだ。電気の発見により、日没のあとも働くの現代人の不健康の原因であることは自明だろう。
さて、今回紹介する座談会『運動腫瘍学の可能性を探る』には、「”Exercise Oncology”生涯にわたっる運動の実践へ」という副題がついている。この座談会は、医学界新聞の最新号(第3484号、2022年9月5日)に掲載されていた。興味を惹かれたので、記憶と記録のためにまとておく。
<運動によるがんの予防、がん治療中の副作用の軽減、がん治療後のQOL向上などを目的とした学問で、米国ではがん患者が治療をうけた帰りにスポーツジムに寄り、汗を流すことも珍しくない光景だ。>
上のようにイントロに書いてあった。出席者は、司会の高野利実さん(がん研有明病院・乳腺内科)、越智英輔さん(法政大学生命科学部・大学院スポーツ健康学)、がんのリハビリテーションの研究で著名な辻哲也さん(慶応義塾大学。・リハビリテーション医学)、がん患者の循環器診療を行っている志賀太郎さん(がん研有明病院・腫瘍循環器・循環器内科)の4名だ。
司会の高野さんが、運動腫瘍学の概念を次のようにまとめている。
<ひとはがんを発症する前の「がん予防」の段階からCancer Journey( がんとの共生)が始まっており、「がん治療」「がんケア」「緩和ケア」「がんサバイバーシップケア」の全てに運動腫瘍がかかわっている。>
日本では、上記のような運動腫瘍学の取り組みはこれからのようだ。だから、タイトルに「可能性を探る」と明記してあるのだろう。ところが、歩ければ、歩いていれば、あるいは歩けるように快復してくれば、もっと生き延びることができると言うのは自明であるだろう。